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大阪高等裁判所 昭和44年(う)296号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕論旨は、小売商業調整特別措置法(以下単に措置法という)三条一項は憲法一四条、二二条、二九条に違反する無効の規定であると主張するので逐次これに対し判断する。

まず所論は、小売市場と同じ効用を果しているスーパーマーケットの開設については何ら法的制限がないのに、措置法が小売市場の開設に対してのみ制限するのは、法の下の平等を規定した憲法一四条に違反するというのである。措置法三条一項は政令で指定する市(特別区を含む、以下同じ)の区域(以下指定地域という)内の建物については、都道府県知事の許可を得たものでなければ、小売市場(一の建物であつて十以上の小売商(その全部又は一部が政令で指定する物品を販売する場合に限る)の店舗の用に供されるものをいう、以下同じ。)とするため、その建物の全部又は一部を、その店舗の用に供する小売商に貸し付け又は譲り渡してはならない、と規定するから、小売市場を開設しようとする者は都道府県知事の許可をうけなければならないところ、いわゆるスーパーマーケットの開設にあたつては、都道府県知事等の許可をうけるべきことを規定した法規は存しないから、この点において、小売市場を開設しようとする者と、スーパーマーケットを開設しようとする者との間には、法律上平等の処遇がなされていないことはあきらかである。しかし措置法ほんらいの趣旨は、小売市場内の店舗を賃借しまたは譲り受けて、小売商業を営む商人(以下小売市場商人という)は、概ね家族労働に依存する零細小規模の商人であつて、過当競争によつて容易に倒産する虞があるほか、小売市場を開設した者(以下小売市場業者という)に対し、賃借人等として経済的に弱者の立場に立つものである実情にかんがみ、小売市場商人相互間の過当競争を未然に防止し、かつ経済的に強者の立場に立つ小売市場業者との間において苛酷な賃貸条件等に苦しめられることがないようにして、小売商の経営の安定を図る目的の下に、小売市場業者に対し、市場内店舗の貸付譲渡にあたり都道府県知事の許可をうけさせ、知事において、当該小売市場の開設により、周辺の小売市場内の小売商等との間に過当競争が行われ、そのため小売商の経営が不安定になる虞がないか、小売市場業者の小売市場商人に対する貸付条件譲渡条件が適正であるかどうか等を審査させることとし、もつて措置法第一条の目的を達成しようとしているのであつて、その当面の目的は零細小売商の保護にあるところ、いわゆるスーパーマーケットはいまだ確定的定義はないとされるけれども、特徴的にいえば、食料品部門を中心に各種大量生産商品(但し鮮魚青果物を含む)の販売部門を統合し、大量仕入と、セルフサービス制採用に因る廉売小売商であつて、相当の大資本の投下により開設された単一経営体ということができるのであつて、他の小売商人と店舗賃貸借等の法律関係に立つことがない点において、小売市場業者と異なり、また過当競争に堪え、自力によつて経営の安定を図ることができる点において、小売市場商人と異なり、商業改策上、彼此平等に処遇すべき事実上の根拠が何もないと考えられる。憲法一四条はいわれのない不合理な差別待遇を禁ずるにとどまり、法律的経済的に性格の異なるものを、差別して取扱うことまでも、禁じているものではないから、小売市場業者に対する規制は必ずしもスーパーマーケット業者に対する規制と相伴わなければならないものとはいえず結局憲法一四条違反の論旨は理由がない。

次に所論は、措置法三条一項の規定は、職業選択の自由、したがつて、営業の自由を保障する憲法二二条に違反するというのである。措置法三条一項、五条の規定によれば、小売市場を開設せんとする場所が既存の小売市場の近くであつて、開設の結果小売商人間の過当競争が予測される場合等には、都道府県知事において、措置法三条一項の許可をしない等のことがあるので、そのような場合には、自分の好む場所に小売市場を開設することができず、小売市場を開設し営業しようとする者の自由がその限度において制限されることになる筋合である。しかし、憲法の保障する営業の自由といつても、絶対無制限の自由ではなく、公共の福祉を保持するため必要な合理的制限には服するものと解せられるところ、小売市場商人は、右に説明したとおり零細商人であつて、小売市場業者から、また過当競争からある程度保護してやらないと、その取扱う物品が鮮魚青果物等市民の日常生活上不断に必要とするいわゆる生活必需品である関係上、過当競争等により小売市場商人が共倒れになつたときには、生活必需品の供給が杜絶し、一般の市民生活に脅威をきたす虞があるから、小売市場商人の営業に保護を加えることは窮極的には、一般市民の生活を守ることに通じ、すなわち公共の福祉を保持するゆえんともなるのである。(もとより、その保護の程度がいわゆる過保護に及び、一般市民の不便を無視して、いたずらに既存の小売市場商人の独占ないし寡占的利益の擁護に奉仕するに至るならば、他の小売市場業者、小売市場商人たらんとする者の営業の自由を侵害することになると考えられるが、本件においては記録を精査してもそのような事情は発見できない。)してみれば、小売市場商人に対する保護が、小売市場を開設しようとする者の営業の自由を、若干侵害する結果をきたしたとしても、公共の福祉を保持するためけだし、止むを得ないところであつて、憲法二二条違反の論旨も理由がない。

次に所論は、大阪府においては、措置法三条一項の都道府県知事の許否の規準を条例をもつて定めることなく、単なる府知事の内規をもつて定ているうえ、措置法の右の規定は正当の補償なくして財産権の行使を制限する規定であるから、結局この規定は財産権を保障する憲法二九条の規定に違反する、というのであるが、憲法二九条は、その一項において、財産権は、これを侵してはならない、と規定し、財産権の不可侵を宣言しているけれども、二項において財産権の内容は公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める、と規定しているのであつて財産権は公共の福祉に役立つよう相当の制限に服すべきことが宣言されているのであるから、措置法三条一項の規定のために、指定地域内の建物の所有者が、その建物を同法にいう小売市場とするため、その全部又は一部を他の小売商に貸し付け又は譲り渡すにあたり、都道府県知事に対し許可を申請しなければならなくなつたり、その許可が得られないため、所期の賃貸売買ができない事態が生じたとしても、それは前段説明のとおり小売市場商人の保護を図り、公共の福祉を保持しようとする国策に伴う法律上の措置にほかならず、いうなれば公共の福祉に適合するように法律で定められた財産権の内容であるとかんがえることができる。したがつて措置法三条一項の規定は何ら財産権を侵害するものではないわけである。そして建物所有者の権利行使に対する右の程度の制約は、公共の福祉を保持するうえに必要止むを得ないところであり、その者が甘受しなければならない責務であるというべきであるから、何ら憲法二九条三項の損失補償を要するものではない。また大阪府においては、措置法三条一項の府知事の許否の規準について、条例をもつてこれを定めているわけではないが、当審事実取調の結果に徴すれば、府知事は、所轄の市長が許可申請にかかる場所について、人口、発展性、交通の状況、周辺小売市場の状況等を調査した資料を添付して申達してきた許可申請に対し、更に担当係員をして現地調査をつくさせたうえ、これを学識経験者、業界代表、消費者代表、府議会商工労働委員会議員等一五名をもつて構成する大阪府小売商業調整協議会に諮問し、同協議会の答申を参考にして、大阪府小売市場許可基準内規に照らし許否を決する取扱であるところ、同基準は措置法五条一号の規定をうけて、これを明確化したものであるが、かなり弾力的運用の余地を残した例外の少くない基準であつて、諸般の手続にかんがみ、これが条例でないからといつて、申請者の権利の保護にかけるものとすることはとうていできないことが認められる。してみれば、所論憲法二九条違反の論旨もまた理由がない。(竹沢喜代治 尾鼻輝次 知識融治)

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